5月30日の記事でお伝えしました、大型絵本「ジス・イズ・ホンコン」が出版社の公式サイトで予告されていた発売日よりも早いですが書店に行ったら並んでましたのでさっそく手に入れました。

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発行元はブルース・インターアクションズで、価格は1890円、サイズはタテ30.5cm×ヨコ22cmと大判、ページ数は絵本としてはボリュームがあり60ページです。

原書「This is Hong Kong」が発行されたのは1965年。

原著がどこで出版されたものか奥付を見ても載っていなかったので、ブルース・インターアクションズの編集部に聞きましたところ、原書はアメリカのW.H.アレンという今はなき出版社から出されたそうです。

そんなわけで40年あまりの時を経て復刻された日本語翻訳版です。

このシリーズは最初に1959年に「This is Paris(ジス・イズ・パリ)」が刊行されました。ロンドン編、ニューヨーク編など18作が刊行され、「ジス・イズ・ホンコン」はシリーズ唯一のアジア編です。

このシリーズ絵本、もともとは子供向けの「旅行ガイドブック」として作られたそうです。絵本と聞いて敬遠する人もいるかもしれません……でも、ちょっと待った!!この本、言い換えればイラスト集です。きわめてオシャレでちょっとクラシックな眺めているだけで楽しい本です。

で、きょう、書店の店頭で見かけてすぐに「ふーん」と思ったのは、表紙の色。

このシリーズのほかの都市は、ロンドン編もパリ編もサンフランシスコ編も、例外なく、みな、モスグリーンやエンジ、あるいは淡いピンクなど、渋めにキメているのに対してこの香港編では原色の黄色を表紙に使ってます。こちらを参考にどうぞ。amazon.co.jp

また、このシリーズの各表紙は、それぞれ観光っぽいアイテムが描かれています。すなわち、ロンドンなら黒い帽子のバッキンガム宮殿衛兵、サンフランシスコならケーブルカー、ヴェニスならゴンドラなどが表紙に使われています。

ところが、この「ジス・イズ・ホンコン」は、赤ちゃんを背負った母親の背中が表紙に描かれています。

母親は買い物帰りなのか、手には新聞紙で包まれた物(干物?)をぶら下げています。

この絵本の作者のミロスラフ・サセックにとって、香港とは「 生活者であふれている街 」 という印象が強かったことがうかがわれます。

彼のなかに東洋やアジアに対しての色メガネがはたしてあったのか、もしあったとすればそのメガネの色がどの程度濃かったのかは知りません。

ただ、彼が、中国人(=東洋人全部?)を、あるステレオタイプで見ていたであろうことが推測されます。

というのは、このシリーズの「ジス・イズ・サンフランシスコ」で、チャイナタウンが出てくるページがあるのですが、このページで作者は、まったく同じ顔、同じ服を着た中国系の人を判で押したように整列させて均等にダーッと並べて描いています。なにか小動物の群れのようです。

ここには、東洋蔑視ではないにしても、作者にとってのステレオタイプの中国人──もしかしたら作者の意識には中国人とさえも明確に限定した認識がなく、見分けのつかないアジア人──、西洋人の眼から見たら、西洋人よりも生身の人間であることがやや希薄な東洋人、というイメージが、作者が意識せずとも描かれてしまったのではないか……とも受け取れます。

このような作者の意識が「ジス・イズ・サンフランシスコ」で見え隠れする部分が少しありましたが、これは私の勝手な推測。そんな勘ぐりは置いておくとして、この「ジス・イズ・ホンコン」には、少なくともひとりの西洋人の目をとおして見た香港が正直に描かれています。だから興味深い。

中を覗くと、40年前のクイーンズロードイーストやセントラルの様子、屋台や行商の人々、おなじみ2階建てトラム──なんと車体の広告は日本の「楽聲牌」(松下電器)!──そしてピークから見た高層ビルのほとんど建っていない香港島と九龍半島の景色……などなどが、ページをめくるたびに広がります。

1960年代前半に旅した、ひとりの西洋人画家の眼に映ったアジアの都市。この本には今よりもオリエンタルで、今よりもコロニアルなホンコンがあります。

写真でもなく、文章でもなく、絵で描かれた昔日の植民地香港。

絵で描かれた香港を見るのは、ストレートに面白い。絵だからこそ、我々に40年前の香港を強く夢想させてくれます。絵の背後に街の喧騒や広東語が聞こえてきそうです。

前回のこの本の紹介の記事でも書きましたが、このシリーズで作者のサセック自身がもっとも気に入っている3冊のうちの1冊が「ジス・イズ・ホンコン」ということです。

発売されるのを心待ちにしていましたが、中身は期待どおりでした。

ネット情報全盛の今ですが、紙でできた本の良さ、というものをあらためて実感できます。

ぜひ一度本屋さんで見てみることをおすすめします。

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