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 きょう所用で行った池袋で、たまたま古本市が開かれていて、この本を手に入れました。
 保育社のカラーブックス 「香港 マカオ・台湾 の旅」です。
 5月24日に上野に行ったときにも古本市を見かけて、今から35年前の日経新書「香港」を見つけましたが(http://hongkong.world.coocan.jp/top/2006/05/35.html)、このとき、この本の脇に並んでいたカラーブックスを見かけて「そうだ、こんな文庫本が昔あった。ところで香港編ってあったのか?」と思い出して、適当なカラーブックス1冊を手にとって巻末リストを見ました。このとき初めて「香港 マカオ・台湾 の旅」というものが存在していたを知ったのですが、この本自体は、この古本市にはありませんでした。そこで、「いつかは手に入れよう」と思っていたところ、たまたま見かけた本日の古本市で発見したのでした。

 保育社のカラーブックスはカラー写真で構成された文庫シリーズです。ビニールカバーにくるまれたこの文庫本は、いまこのブログをご覧の方々の中にも、自分では持っていなくとも、子どものころ、お父さんの本棚にあるのを見かけた人も多いのではないでしょうか。学芸員Kは、まだ小学校に上がる前、父の本棚に「駅弁旅行」とか「世界のミニカー」なんていうタイトルのカラーブックスを見つけて、本棚から引っ張り出してページをめくってけっこう熱心に眺めた記憶があります。
 カラーブックスが扱うジャンルは、シリーズNo.1の「ヒマラヤ」から始まって、グルメ、ペット、コレクション、神社仏閣、盆栽、手品、結婚式のマナーから、世界の大学なんていうのまで、とにかくありとあらゆる分野のもので網羅されています。この「香港 マカオ・台湾 の旅」はNo.226です。この本の巻末のリストを見たら、リストの最後はNo.386「郷土玩具の旅」となってます。全部で何巻あるのかは知りませんが、いま、ネットで軽く調べたら、No.909「日本の私鉄 京阪」というのがありました。スゴイ巻数です。全部で1000を超えているのでしょうか。
 保育社は1999年の経営破綻を経て、現在は再スタートしてこのカラーブックスも新シリーズが刊行されていますが、従来の膨大なシリーズは絶版となっています。
 今回、このカラーブックスをネットで調べてみたら、このシリーズには多くの愛好者がいることがわかりました。このカラーブックス自体を収集している人、そして、たとえば鉄道模型のお店が、マニアに向けて、鉄道を扱った絶版のカラーブックスを売っていたり。なにしろ、鉄道関連のカラーブックスだけでもおびただしい数がありますから。
 さて、手に入れたNo.226「香港 マカオ・台湾 の旅」。ページをめくってみます。
 奥付を見ると「初版 昭和46年 昭和51年 重版」となっています。昭和46年は西暦でいうと1971年で、日本万国博覧会が大阪で開かれた翌年にあたります。前回、上野の古本市で見つけた日経新書「香港」も昭和46年の初版です。
 ページを開くと、冒頭に 「『いまや熱海になった』とさえ言われる香港」 とあります。熱海とはいくらなんでも大げさじゃないかとは思いますが、JALパックが誕生して、いわゆるパックツアーが海外旅行の基本となるころの時代なので、その勢いをうけて世間でもこんな表現が使われていたのでしょうか。「あこがれの夢のハワイ旅行」 から 「身近な熱海並みの香港」への、海外旅行大変革の時代だったのかもしれません。ところが、上の文が書かれた同じページの数行後には、「航空運賃は東京~香港間往復15万4千6百円ナリ」と書かれています。これは正規運賃だと思います。現在の正規運賃とほとんど同じです。当時の物価からみて相当値の張るものだったに違いありません。
 調べてみたところ、1971年の大卒初任給は、平均4万2000円。現在の大卒初任給の平均をおおざっぱに20万円として単純に比較すると、当時の香港往復の運賃は、現代の感覚では約73万円ということになります。すごく高くつく 「熱海」 です。当時は、格安チケットなんてものはなかったでしょうし。
 この本は、2006年の現代の眼で見ると、全体を通して感じるのは、ほほえましい内容という一言に尽きます。しかし、たとえば、飲茶を単純に 「香港では有名なヤムチャをぜひとも食べてみるとよい」 という紹介の仕方を見ると、この本が刊行された時代は、ある意味すごく面白い時代だったのではないかとも思います。
 なぜなら、今では、香港に行かなくても、飲茶を楽しもうと思えば、日本でも可能ですからヤムチャなんて珍しくもなんともないですが、しかし当時は、飲茶を本当に異国の食体験として香港で堪能できたであろうことが、この紹介の仕方から伺えるのです。
 さらにこの本には、ナイフとフォークを持ってカメラ目線の笑顔で機内食を堪能している写真まで登場します。当時の人々は私たちが楽しむ以上に海外旅行を楽しんでいたに違いない、と、ちょっとうらやましい気持ちさえ沸いてきます。
 おそらく当時、たとえば香港の映画館に入ったら、それこそすごいカルチャーショックを受けたんじゃないでしょうか。映画館に入った観光客は当時ほとんどいなかったかもしれないけど、学芸員Kならゼッタイ入った。当時は今と違って情報が氾濫していなかったから、映画に限らず何でもかんでも、「素の状態」でたっぷりと体験できたのではないかと思うのです。あー、当時の香港に、当時の感覚で行ってみたい。
 話は飛びますが、こうやって考えると、一番究極の驚き&ゼイタクな観光旅行は、幕末の志士の欧米への洋行だったかもしれません。あれはもう宇宙のほかの天体に行ったみたいな、自分の身体のまわり360度、見るもの聞くもの触るもの匂うもの食べるものすべてが、驚異の体験の連続だったのではないでしょうか。
 さて、学芸員Kが手に入れたこの「香港 マカオ・台湾 の旅」は、ほとんど新品に近く、汚れや痛みがまったくなくラッキーでした。ビニールカバーもキレイな状態。当時の定価は430円。本日は500円の値が付いていました。今回古本市を見かけたときに、この本を探そうと勇んで中に入ったわけですが、探すまもなく、入り口の脇の文庫コーナーのカラーブックスの背表紙の群れの中から一発でこの「香港 マカオ・台湾の旅」を発見しました。おそらく古本市に入って20秒も経っていません。
 
 香港が中国に返還される前の香港ブームのころ、テレビでしょっちゅう香港特集をやってたとき、学芸員Kは新聞のテレビ欄の全体をパッと見て一瞬で「香港」という文字がいくつも目に飛び込んできて、赤丸を瞬時に付けていくという能力を持ってましたが(笑)、久しぶりにその力を発揮させて今回の本を見つけました。無数の文字の中から「香港」という文字だけ浮き上がって見えるのです。同じ症状、いや能力をお持ちの方はいらっしゃると思いますが、とにかく、この本、即買いでした。
 古書店の文庫コーナーで、意外とたくさんのこの保育社のカラーブックスを見かけます。もし機会があったら、皆様も探してみてはいかがでしょうか。