いやー、実はこの記事、おとといの20日月曜日に書いてアップしようと全部書いてクリックしたら、サイトの掲示板でもお伝えしましたとおりサーバに障害があって投稿できず、記事がどっかへ消滅してしまいました(泣)。
 ということで、再度書きます。
 TSUTAYAが恒例の旧作レンタル半額キャンペーンをしていたので、かねてより観たかった東宝映画 『香港クレージー作戦』 (1963年12月公開 <つまり1964年お正月映画> ) のDVDを先日の19日の日曜日に借りて観ました。この映画は、1960年代に量産されたクレージーキャッツの喜劇のうちの1本です。
 家を出る前に、「さあ、香港クレージー作戦借りてくるぞ」 と言ったら、5歳の息子が 「そんな変な映画借りてくるならポケモンも借りてきて」 というので、仕方なしに 「ポケットモンスター 水のなんたらかんたら」(題名忘れました)も一緒に借りてきました。
 先に息子にポケモンを観させてから、いよいよ 『香港クレージー作戦』 です。
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      『香港クレージー作戦』
      1963年12月22日公開 東宝映画 93分 カラー 東宝スコープ
      製作:藤本真澄/渡辺晋  監督:杉江敏男  脚本:笠原良三
      出演:植木等/ハナ肇/谷啓/犬塚弘/安田伸/石橋エータロー
          桜井センリ (以上 クレージーキャッツ)/浜三枝/淡路恵子
          中尾ミエ/有島一郎/柳家金語楼 /由利徹/リン・ツウォン
 ストーリーはだいたいこんな感じ―――
 植田(植木等)は超お調子者、「C調」サラリーマン。彼には、毎日通う食べ物屋横丁があった。 さて、ハナ肇や谷啓らクレージーキャッツの面々が演ずる、この横丁の店の主人たちは大きな危機に直面し、困り果てていた。彼らがテナントとして借りているボロ店の立つこの土地が、香港人実業家に買収され立ち退きを迫られていたのだ。植田は彼らの窮状を知り、よし任せとけと香港実業家に、こんな提案を持ちかける。
 「立ち退き料はいりません。聞けばアナタは香港の一等地にビルをお持ちだそうで。立ち退き料の代わりに、アナタの香港のビルに我々に日本料理の店を開かせてくださいヨ。店がうまくいったら1年目からは家賃も払います!」
 香港人実業家はこれを了解。かくして、クレージーキャッツの面々、そして浜三枝演ずるBG(ビジネスガール。今でいうOL) は香港に乗り込む。そして開店した日本料理屋 「菊花亭」 をあの手この手で繁盛させようと大騒ぎ。
 と、まあ、こんなストーリーです。主人公・植田の提案がいかにも強引(笑)。ムチャクチャです。海外ロケ先にありきで脚本GO GO!です。60年代に一世を風靡したクレージーキャッツの映画は、80年代の香港映画にも通じる荒唐無稽さがあります。だから楽しいです。香港人の若い実業家も最後まで好人物だったし、この映画には悪人は一切出てきません。お互いが Win-Win で、最後には皆がハッピーです。
 閉口したことがひとつ。クレージーキャッツの面々が、映画が始まってもなかなか香港に行ってくれない(笑)。物語が進んで、40分ほど経ってようやくパンアメリカン航空(!)に乗って香港に行きます。待ちくたびれました。
 パンナムのショルダーバッグを肩からぶら下げて羽田空港からいよいよレッツゴーです。飛行機の中では、ハナ肇演ずる店の主人が機内食を食べながらすごくはしゃぐシーンがあります。飛行機に乗ったり海外へ行くのが特別なことだったのがわかります。
 調べてみたら、敗戦後の日本で規制されていた海外渡航が自由化されたのは、まさにこの映画が作られた1963年。しかもこれは業務渡航に限ってで―――だから主人公たちは業務渡航で香港に行けたのか? この映画はそんな社会的背景があって物語ができたのか?―――観光渡航の自由化となると、さらに翌1964年まで待たねばなりません。
 つまりこの映画ができた1963年というのは一般の人は基本的に海外には行けなかったのです。それほど当時の日本における「海外」は貴重だったので、だから映画のなかでもクレージーはなかなか香港に行かずにおいて、当時の映画館の観客をさんざんじらしていたのかもしれません。当時の観客にとっては、まさにあこがれの香港行きだったのだと思います。いくら自由化されたといっても、お金はかかるし。
 学芸員Kは、もともと植木等が主人公のクレージーキャッツ映画が好きで、大学時代は池袋にあった名画座 「文芸地下」 でクレージーキャッツ特集のオールナイト上映などを観たり、たまにテレビで放映されたときは欠かさず観たりしていました。
 しかし、本作 『香港クレージー作戦』 は、たとえば 『ニッポン無責任時代』や『ニッポン無責任野郎』 などと比べるとマイナーな作品だったのか、テレビで放映されることもあまりなかったのか、観る機会がありませんでした。(あるサイトによると、この作品は公開当時大ヒットしたとのことですが…。)
 今回やっと観ることができたわけですが、物語はやはり 『ニッポン無責任野郎』 などの方が痛快で面白いと思います。
 しかし、学芸員KがこのDVDを借りたのは、純粋に映画を観るためだけではありません。もちろん、言うまでもなく、大きな目的は、1963年当時の香港の様子を見ることです。
 見ました! 見ましたよ! 1963年当時の鮮明なカラー映像による香港の街並み! 最近の旧作映画はデジタル処理による修復がすごい優秀だから、フィルムのキズも消されて、さらに褪色も補正されたのか、大変キレイです。ネーザンロードや二階建てトラムが出てきて思わず 「おおおッ!」となります。高層ビルなんてひとつもないし。
 香港でのロケ自体は、この作品を観る前から大方予想はついてましたが、かなりてっとり早く撮影を済ませたようで、クレージーキャッツの面々が香港の街中にいるシーンでは、細かなカット割りなどは皆無に近い状態です。 ハイライトシーンのひとつ、おそらく香港島側と思われる大通りでの、本当の野次馬の大群衆を巻き込んでのクレージーキャッツのチンドン屋さん風のパレード。これもロングに近い状態で撮られています。それ以外のシーンもだいたいはクレージーキャッツの集団を全員でまとめてワンフレームで撮影し、あとは別撮りした香港の街並みの風景を単独でいくつか撮影、それを随所にちりばめて 「香港情緒」 を出したという按配です。当時のクレージーキャッツはスケジュールびっしりで忙しかっただろうからなー。
 そういう感じの作品ではありますが、香港ファンにとっては、かなりそそられる1963年の香港の街並みの映像を観ることができます。43年前の香港がそこにあります。しかもキレイなカラー映像。機会があればぜひご覧あれ。
 あと細か~いことですが、上の写真、タイトルの「香港」の「港」のつくりの下の部分、「己」ではなく「巳」になってます。 これはどうして? 日本では「港」は「己」じゃないの? たしかに、地元香港では「港」は「巳」です。現地の文字に合わせたのか? そうだとすれば凝ってます。 それとも1963年当時は日本でも「港」には「巳」を使ったのか?
 ちなみに、一連のクレージーキャッツの映画で植木等が演じるサラリーマンは、「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と歌って、タイムレコード押しときゃあとは寝ててもいい、ウッシッシッシ!という、調子ばかり良くて大ボラ吹きの男なのですが、結局最後は決まって大出世する。しかし、よくよくきちんとこの男の行動を見てみると、会社の重役を手際よく説得し、取引先の親分とは口八丁手八丁で渡り合って、ときにはすごいヒラメキが沸き、最初のホラはやがて真実となり有限実行、やるときゃとことんやる―――という実は超優秀サラリーマンなのです。
 ―――というような記事を書いて20日にアップしようとしたら消滅したので、以上、再度書きました。
 ところで、話は変わりますが、今日22日の午後3時頃、神保町の大通りの雑踏のなかを歩いていたら、経済評論家の佐高信氏とすれ違いました。
 学芸員Kははるか昔、大学時代、特別講師として招かれた佐高信氏の特別講義 (たしか講義名は 「企業小説を読む」 だったか 「企業と人間」 だったか?)を受けたことがあります。階段教室の大人数マスプロ授業でしたが……。毎回具体的な企業が俎上に上がり大変面白い講義だったので1回も休むことなく受講して論文形式の試験を受け、「A」の成績を取りました。(まあ、特別講義はたいてい「A」が多かったようだが……)
 さて、大通りで佐高信氏とすれ違って、学芸員Kはしばらくそのまま歩きましたが、ちょっと迷惑かなとも思いましたが迷ったのち踵を返し、約束の用事でもあるのかかなりの早歩きで先を急ぐ佐高氏の背中を追いかけ、そして呼び止めました。
 「あの、すみません、佐高先生ですか?」
 「はい――?」
 「あの、私、20年ほど前に大学で先生の特別講義を受けました」
 「ああ、そうですか!」(笑顔)
 「その節はありがとうございました!」
 「いま、サラリーマン?」
 「<近況報告>」
 「へえ、そうですか」
 「いやあ、声をかけて失礼しました。その節はありがとうございました!」
 「はい、どうも―――」(笑顔…だったと思う)
 紙媒体はもちろん、テレビでも辛口のコメンテーターとして政府批判、企業批判を展開する佐高信氏。かつて佐高氏は日本のサラリーマンのことを、家畜になぞらえて 「社畜」 というすさまじい造語で喝破したことでも有名ですが、それにしても、今回のいきなりの 「いま、サラリーマン?」 という先生の切り返し(笑)。さすが佐高信氏ならでは、佐高信ここにあり、で嬉しかったです。
 日本のサラリーマンがみんな映画の植木等みたいな「C調サラリーマン」だったら、佐高氏はなんと評論するでしょうか?