yuenlong最近は少なくなったようだけれども、一時期、日本ベタ褒め自画自賛バラエティとでも呼べる番組がたくさんあった。

その代表格の『世界が驚いたニッポン! スゴ〜イデスネ!!視察団』(テレビ朝日)は現在も放送している。

この番組はざっくり言うとこんな構成だ。

海外(多くはアメリカやドイツなど欧米先進諸国)から職人や技術者などその分野・業種のプロを「視察団」として日本に招く。そして彼らに日本における彼らと同じ分野・業種の様子を見学してもらう。彼らは、自分の母国にはない日本のハイテクぶりや勤勉な日本人の創意工夫を目の当たりにする。彼らはニッポンの素晴らしさに驚嘆し、称賛し、憧憬する。「スゴ~イデスネ、ニッポン」。

第1回の放送では、東京の地下鉄や路線バスがいかにスゴイかを特集した。

詳細は忘れたが、日本に招かれて東京メトロの地下鉄を見た欧米の地下鉄職員や運転士は、日本の先進技術の粋を集めた車両や、日本人の勤勉な性格によって実現した緻密な運行の様子について感嘆していた(ような内容だったと記憶している)。

たしかに、職員の努力と工夫により遅延の少ない東京の地下鉄の運行システムは、世界に誇れるものかもしれない。

けれども、その一方で東京の地下鉄は遅れている。私が20年も前に乗ったきりのニューヨークやロンドンの地下鉄の、いま現在の様子は知らないが、でも、欧米の地下鉄職員よりもむしろアジアの香港や台北の地下鉄職員が東京の地下鉄を見学したらこう思うかもしれない。

「うわ、東京の地下鉄のホームにはいまだにホームドアを設置していない駅がこんなにあるのか? 危険じゃないのか? 何でこんなに東京の地下鉄は遅れているんだ?」

一部を除き東京メトロや都営地下鉄の駅は設計が古い。だから、それらと新興の香港MTR(1980年代以降)や、超が付く新興の台北MRT(1990年代以降)と比べるのは酷だ。でも、とにかく現状として東京の地下鉄の駅のホームには人がすれ違うのがムリなほど幅の狭い箇所がいくつもあり、その横を電車が飛び込んでくる。なのにホームドアの設置された駅はいくつかの路線を除き極めて少ない。多くの駅が「欄干のない橋」の状態だ。

欧米の西洋人にニッポンを褒めてもらって視聴者の自尊心をくすぐることが番組の趣旨だけど、欧米人にニッポンの「いいところだけ」見てもらったら、そりゃ確かに「スゴ〜イデスネ!!」だろう。

 

同じように思ったのがコレ。

リオオリンピック閉会式で流れた、次回開催の東京オリンピックPRビデオ。

NHK実況版
https://www.youtube.com/watch?v=sk6uU8gb8PA#t=3m15s

同じ映像の中国CCTV実況版
https://www.youtube.com/watch?v=s23qwzu4Mb8#t=1m36s

このビデオはテンポもよくて単純にカッコイイ。閉会式を録画した私は、ここだけ何度も見てしまった。

きらびやかでハイテク感漂うトーキョーシティー。いまやスゴイ都市は香港や上海やドバイもあるけど我らが東京だって負けてない。

でも、これはあくまで自己PRビデオだ。

いま海外から東京にやってくる観光客の中には、事前にこの閉会式のPRビデオを見た人も多いはず。また今まで母国で日本のクルマやカメラやそのほか、たとえそれが委託工場で製造されたメイド・イン・チャイナであれ日本ブランドの良質な工業製品に慣れ親しんできた外国人もいっぱいいる。そんな彼らの中には、東京の街を初めて見て自分の東京に抱いてきたイメージとのギャップを感じてこう驚く人がいるんじゃないか。

「ついに来たぞハイテクの国、ニッポン!  そのニッポンの首都、トーキョー! うわ、ウソだろ? オーマイガッ! なんでトーキョーにこんなに電柱があるんだ? 小鳥にとまってもらうためか?」

(写真は東京ではないが、東京の商店街も同じ。写真の引用元は上から 読売新聞電線のない街づくり支援ネットワーク不明

Google画像検索「日本 電柱」での結果:こちら

 

昔から、なんで日本は電柱だらけなのかと私も思ってきた。

そう思うたび、同時に「そういえば香港の街には電柱ってあったっけ?」という考えに至る。

ゴチャゴチャの街、香港。

でも、あらためて振り返ってみれば、たしか彌敦道など大通りには電柱はない。

しかし裏通りに電柱はなかったか? 廟街とかどうなってた? ボロボロのビルや看板でゴチャゴチャしてるけど、電柱は?

たしかに自分の撮ったいくつかの香港の路地裏の写真を見ても、電柱らしきものは見当たらないが、全部の通りに電柱はないのか?

そう考えるたび「今度行ったら確かめよう」と思い、いざ行っては現地ではすっかり忘れてしまい確かめてこなかった。

ところが最近、香港には電柱がないことをはっきり知った。

ちょっと前にテレビのワイドショーで、東京都知事に就任した小池百合子氏が東京の「無電柱化」に意欲を示していることを取り上げていた。その際、世界各都市の「無電柱化率」なる数字をフリップで示していた。(下のグラフはそのネタ元の国土交通省のデータ)

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驚いた。

香港の「無電柱化率」は、ロンドンやパリと並び、な、なんと100%!!!!

つまり香港の都市に電柱は存在しないのだ(これは都市部だけか? 九龍郊外の集落とかまで本当に電柱がないのかは不明。私が集落に行ったとき電柱を見たような気もする)。

一方、東京23区はたった7%、大阪は5%。

7%、5%って……なんじゃこりゃ。

逆の意味で『世界が驚いたニッポン! スゴ〜イデスネ!!』である。

 

イギリスの植民地として、ほぼゼロスタートでその歴史が始まった香港は、元・宗主国の首都ロンドン同様に無電柱化率が100%なのは、まあ理解できる。

当記事の一番上の写真は私が撮った九龍郊外の街、元朗の風景。

香港の地方都市とも言える元朗にも電柱がない。

香港ってゴチャゴチャしているはずなのに、あらためて見ると電柱がない分、スッキリしているではないか。

たしかに検索すると香港の路地にも電柱はない。
Google画像検索「香港 路地」での結果:こちら

そうか、検索すりゃ現地に行くまでもなくだいたい分かったな。

思い出した。それに今じゃストリートビューでも見られる。下は廟街。

ビルはくたびれているけれども電柱はない(立っているのは電灯の柱だけ)。

 

不思議なのは、日本の植民地だった台湾の台北が、ほとんどが電線は地中にあることだ。同じく韓国のソウルだって半分が無電柱化されている。

いつ無電柱化されたのか? 日本の統治時代? 解放後の70年間の施策で?

なのにこの東京や大阪の体たらくぶりはなんだ。

 

ソウルは香港や台北に比べると無電柱化率が低めで電柱が存在する。前にソウルの飲み屋街を歩いていて、なんで日本の飲み屋街と似た風景なのかと思ったのだが、あとで考えてみて、ああそうかと合点がいったことがある。もちろん看板などの風情が日本と似ていることもあるが、ソウルの飲み屋街の横町には日本と同じく歩道がないことに加え、電柱があったのだ。

 

香港は100%無電柱化されている。つまり電柱がない。

つまり、香港で生まれて、もし香港の外に出なければ、生まれてこのかた電柱というものを見たことがない人もいるというわけか。

 

逆に日本人は、生まれたときから電柱を見慣れている。電柱があることは当然のものとして、感覚がマヒしている。

そんな日本でもガス管や上水管・下水管は地中を走っている。それは日本人にとっては当たり前の常識だ。私たちは普段はガス管などの存在を目にしない。

そんな私たちがどこかの国に行って、もしも、その国の街で、ガス管や上水管・下水管が空中を走っているのを見たらビックリするに違いない。

香港から東京に来た人が空中を縦横無尽に走る電線を見たら、我々日本人がガス管が空中を走っているのに遭遇してビックリするのと同じように、香港人の目には電線が奇異に映るのではないか。

そこまでは言い過ぎかもしれないが、けれども、電柱・電線が日常の風景として何の疑問も持たずに慣れきってしまった日本人と、電柱・電線に免疫のない香港人観光客とでは、電柱のある風景に対する印象が相当違うんじゃないだろうか。

私たちが初めて香港に行ったときに「うわあ、お店の看板が横方向に突き出ている!」とそのゴチャゴチャ感に新鮮に驚いたように、日常生活で電柱免疫ゼロの香港人は「うわ、東京は一歩大通りをはずれたら、至るところに何か知らないけどコンクリートの柱と電線の嵐だ!」とそのゴチャゴチャぶりに驚くのではないだうか。

 

東京観光で香港人が不思議そうに
「うわ、なんだこれ? 道路にたくさんの柱。この線はケーブル? いったい何なんですか?」
とガイドさんに聞く。

「この柱は電柱というものです。このケーブルには電気が流れているのですよ」

「うわあ」

スマホでパシャパシャ撮影大会。

 

私は以前、観光で来日した香港人を連れて東京案内をした。友人とその家族、親戚の総勢10名くらいだ。

そのときに彼らに東京の街なかの電柱を認識したか、認識したなら印象はどうか、その場でリアルタイムで聞いとけばよかった。

 

そういえば、ロンドンに行ったとき、私は街をあるいて特に「電柱がない」とは認識しなかった。

だって「ない」のだから、あらためて意識しなければ「ない」ことに気づかなかった。

去年家族で行った台北もそうだ。台北も無電柱化率が95%と高いが、現地では電柱が「ない」のだから、私は特に「ない」ことに気づかなかった。

けれども逆は違う。普段「ある」ことに免疫のない人が「ある」ことに遭遇すれば、「何だこれ?」と「ある」ことを認識してしまう。

だから海外からの観光客は、日本人にはガス管が空中を走るのと同じくらいのインパクトで、空中を走る電線を見てるんじゃないのか。

 

もう何年も前から、私はテレビで海外の街が紹介されるとき、電柱があるかどうかいつも意識して見てきた。

NHKの『世界ふれあい街歩き』でいつか見た中国の名前は忘れたが小さな地方都市の路地は、意外にも電柱がないので驚いた。再開発でもなんでもない殺風景な普通の、しかもおそらく中心地ではない街角に電柱が一本もなかった。

同じく『世界ふれあい街歩き』で何度も見てきたヨーロッパの各国の、田舎町の石畳の路地。これはもうさすがに見事なほどに電柱がない。

Google画像検索「ヨーロッパ 路地」での結果:こちら

クルマの通らない、ヨーロッパの古い町の路地。電気が通る前から栄えてきたであろう古い町の路地に電柱がないということは、電気を開通する最初から電線を地中に埋めていたということか。

日本はなんで地上の電柱を選択したんだろう。

偶然だが、きのう何か動きがあった。日本はこれから無電柱化に向けて重すぎた腰を上げる気配もある。
無電柱化のニュース

「東京都は道路1キロメートルあたり4~5億円の費用がかかると試算している。」らしい。
http://biz-journal.jp/2016/11/post_17270.html

たった1キロで数億。東京の電線は全部で何万キロあるの? お金が足りない。道のりは遠い。

オリンピックでたくさんの外国人が東京にやってくる。

そのときまで、無電柱化はどのくらい進むのか、進まないのか。

東京MXテレビとかでこんな番組をやってほしい。テレビ朝日の『世界が驚いたニッポン! スゴ〜イデスネ!!視察団』に対抗して逆張りで行く。欧米人じゃなくてアジアの人々を日本に招待する。香港人や台湾人だな。ホームドアのない日本の地下鉄や、電柱が乱立するトーキョーシティーを見てもらう。驚く香港人や台湾人。そんな番組をやってくれたらオモシロイのに。西洋人にホメられて悦に入るよりも、アジアの人々に活を入れてもらえよ、我が日本人!!!

 

香港がゴチャゴチャしているから好き、という日本人は多いかもしれない。この私がそうだ。同じように、東京が電柱乱立でゴチャゴチャしてクレージーだから好き、という海外の東京マニアもいるのかもしれない。

「Tokyo on Foot」というフランス人の描いたイラスト本がある。

タトルという日本の会社が出した本だが、海外向けの本だ。(訂正。元はフランスの出版社から出た本で、英語翻訳版の日本での販売を日本のタトルが担当。タトルはアメリカと東京で設立された会社らしい)

三省堂書店の神保町本店に洋書売り場があり、そこで見つけた。

中身はこちら。(Google画像検索結果)

詳しくは amazon

もし私が香港に旅行に行って、香港の書店で、同じ著者の香港を描いたやつがあったら、即レジ直行の内容。

この本を見ると、表紙からしてそうなのだが、いくつかのイラストに、きっちり電柱が意味を持って描かれている。

これがひとりの欧米人の目から見たトーキョーの一例だ。

ということで、トーキョーはデンチューシティー、日本は電柱超大国なのだ。

 

<ご参考>
小池百合子都知事は都知事になる以前からこの無電柱化に興味を持っていてこんな本も出している。
「無電柱革命」(PHP新書)(amazon

国土交通省 無電柱化の推進
http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/index.html

無電柱化民間プロジェクト
http://mudenchuka.jp/

電線のない街づくりネットワーク
http://nponpc.net/

 

追記:Twitterの香港人フォロワーさんから、香港の田舎には電柱がありますとの情報を頂きました。
https://twitter.com/Gakugeiin_K/status/805266701491179520?lang=ja

 

台湾の話はまた今度やります。もういくらなんでも台湾旅行から日がたちすぎなので、路線変更します。日記形式はやめて、テーマごとにピンポイントで「香港ファンから見た台北」を断続的にやります。間には別の話を書きます。

今回の記事は続きがあります。こちら