前回の記事(「香港って電柱あるの?」こちら)のつづき。
東京や大阪が電柱だらけなのに対して、香港はロンドンやパリと並び「電柱ゼロ」という事実に驚いたという話。
その話の最後の方で、東京の街のイラスト集『Tokyo on Foot』という本をちょっとだけ紹介した。
著者はフランス人青年のFlorent Chavouet(フロラン・シャヴエ)という人。
その後、調べたら、この本には『東京散歩』というタイトルの日本語翻訳版(飛鳥新社刊)が出ていることが分かった。
区立図書館のサイトで検索したら、蔵書があった。2冊とも借りてきた。
左が英語版の『Tokyo on Foot』、右が日本語版の『東京散歩』。
表紙は違うが中身は同じ。大学ノートと同じサイズのB5判。オールカラー。英語版は206ページ、日本語版は巻末に著者インタビューも付いて216ページ。見応えのあるボリューム。
神保町の三省堂書店本店の洋書コーナーで英語版の『Tokyo on Foot』を最初に見かけたとき、私はてっきりこの英語版がオリジナルの原版かと思った。
なぜかというと、店頭で『Tokyo on Foot』の中身を見てみたら、各ページのイラストの上にびっしりと細かい手書き文字が英文で書かれていて、その文字がいかにもイラストレーター自身の手で書かれたような、絵にマッチした文字だったから。だからこの英語版がオリジナル原版だと思ったのだ。
でも、よく考えたらこの本はフランス人が書いた本だ。
もしやと思い検索してみた。すると、原版は『TOKYO SANPO』というタイトルのフランス語版だったことが分かった(amazonフランス)。
これはそのフランス語原版の広告か。
いずれにせよ、この本がすごく面白い。
中身の雰囲気は、ざっと、こちらをご参照(Google画像検索の結果。一部この本に掲載のイラストではないものもあります)。
こちら や こちら。
(amazonで英語版『Tokyo on Foot』の中身がたくさん見られる。こちら)
どうです、面白いでしょう!?
ちなみに英語版の『Tokyo on Foot』の奥付を見たら、英語への翻訳を行ったのは、英語版の版元の、香港にある系列会社となっていた。
このフランス人青年は、半年にわたり毎日、自転車でトーキョーのあちこちに行き、目にした景色やモノをスケッチして歩いたという。絵を描いている最中に、街行く人から声をかけられたり、中には差し入れで缶コーヒーをくれた人もいたそうだ。
こちらがそのフランス人青年、フロラン・シャヴエ。
写真の引用元(WIKIMEDIA COMMONS)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Florent_Chavouet-FIG_2009.jpg
シャヴエ氏が東京の街に無数にある風物のうち何を選択して描いたのかを見れば、フランス人の彼の視点が分かる。それは当然だが、加えて、写真ではなくイラストだからこそ、彼の目に珍しく映ったものはデフォルメされ強調されているから、いっそう彼の視点が分かりやすい。
フランス人青年フロラン・シャヴエの目に、「東京の電柱・電線」はどのように映っていたのか。
それは、この本の中の、いくつかのイラストを見れば端的に分かる(写真はいずれも日本語版。ついでに言えば、すでに上に載せた先ほどのフランス語版の広告では電柱・電線のイラストがわざわざ選ばれているではないか!)
ディオールの入ったビルの前に立つ電柱。夜のひとコマ。
「日本の街をつくってみよう」と題したページでは、街のパーツとして電柱がきっちり出てくる。添え書きには「電柱(電線はケチケチしないこと)」とある。
日本で生まれ育った者にとっては、子どもの頃から至る所に立っていて当たり前の、その存在すら意識してこなかった電柱と電線。その電柱や電線がフランス人青年フロラン・シャヴエの目には、はっきりとした存在感を持ったものとして映っていたことが、これらのイラストから分かる。
いま、検索したらフロラン・シャヴエ氏のホームページがあったので、行ってみたら驚いた。
そのトップページが、そのものズバリなのだ。
こちら(表示にはAdobe Flash Playerがインストールされていることが必要です)
http://www.florentchavouet.com/home.htm
表示されない場合もあるかもしれないので、彼のホームページのトップページをスクリーンショットしてアップしておく。
こちらです。
どうですか。これでシャヴエ氏が「電柱」「電線」を特別な存在として認識していることが、はっきりと分かった!!
海外からやって来た画家やイラストレーターによって描かれた街。
話変わって香港。
私の本棚には、外国人が描いた香港のイラスト集が2冊ある。
1冊は、1991年に香港で買った『A BRUSH WITH HONG KONG』という1990年刊行の大判の本(タテ31cm×ヨコ24cm)。
ロンドン生まれのDave Parkerというイラストレーターによって描かれた香港だ。
私が一番好きなのは冒頭のページにある、このイラスト(写真をクリックすると拡大して見られます)。
当時あった啓徳空港への着陸直前の右急旋回、いわゆる「香港カーブ」のときに旅客機の操縦席から見た香港。
当時はまだ保安の規制もゆるくて頼めば航空ファンなどが操縦室に入れたらしい。
ほかにも、こんなイラストが載っている。
当時はまだあった九龍城砦。左を飛んでいるのは香港カーブ真っ最中のキャセイパシフィック機。先ほどの操縦席のイラストと対になっているとも受け取れる。
アンティークショップ(写真をクリックすると拡大して見られます)。
そしてもう1冊。
『This is Hong Kong』という、これも大判の本(タテ30.5cm×ヨコ22cm)。
大人も楽しめる絵本、という内容。
著者はチェコ生まれのミロスラフ・サセックという人。
もともとは1965年にアメリカで出た本を、40年後の2006年に日本語復刻版として刊行したもの。世界各都市のシリーズとなっていて(こちら)、これはその香港編。
中身はこんな感じ(Google画像検索の結果。ただし他の都市のイラストも交じっています)。
こちら
詳しくは当ブログ過去記事をご参照。
【過去記事1】
http://kengshow.com/2006/05/30/616/
【過去記事2】
http://kengshow.com/2006/06/15/post_10/
シリーズのごく一部は再度の復刻版が別の出版社から出たが香港編は絶版のようだ。amazonでは中古で手に入る。
何回目かの香港で、あるとき、香港人の友人の家によばれて行ったときのこと。
日本に何度か行ったことのあるその友人は、本棚からアルバムを取り出して、初めて家族で東京を旅行したときの写真を見せてくれた。
私は、アルバムをめくっていくうちに、「1階に居酒屋の入った雑居ビルの前に家族で並んで写した記念写真」がやたらと多いことに気がついた。
なんで居酒屋の前でこんなにたくさん撮ったのかと友人に聞いたら、「ビルに瓦屋根のひさしが付いていたり、提灯がかかっていたりするのが面白いから」だという。
友人らの目にはそれが珍しかったのだろう。
東京には「1階に居酒屋の瓦屋根のひさしが付いた雑居ビル」が確かにあるのかもしれない。いや自分もそんな居酒屋を利用してきたのだろう。でも、そんなものは普段は気にもとめていない。
けれども初めて東京に来てそれに遭遇した香港人は、目ざとくそれらをキャッチした。
これって香港に初めて行ったときの私が、彌敦道の大通りを覆うようにしてヨコ方向に突き出した巨大看板を珍しがって何枚も写真に撮ったのと同じなんじゃないか。
もし香港人にこれら看板の写真を見せたら、こういうかもしれない。
「なんで普通の看板を撮ったの?」。
一度、自分が住む東京や、日本各地の街を、外国人が見るように新鮮な目で見てみたい。
私の目には電線や電柱はどう映るのか?
けれどもそれは、とうてい不可能。
でも、外国人が描いたイラストを見れば、その間だけ、私も外国人の目を持って日本の街を見ることができる。
ところで、東京を描いた『TOKYO SANPO』に比べると、香港を描いた2冊『A BRUSH WITH HONG KONG』『This is Hong Kong』のイラストは、私にはややインパクトに欠けるように思った。
確かに絵のタッチも違うのだが、別の理由もあるんじゃないかと考え、はたと気づいた。
私も、香港を描いた著者2人も、香港に対しては外国人だ。
私は、著者と同じく外国人の視点で香港を見ている。同じ視点だ。だから著者の香港に対する視点への「共感」はあっても「発見」や「驚き」は小さい。
そういうことなんじゃないか。
<ご参考>フロラン・シャヴエ
ブログ http://florentchavouet.blogspot.jp/
ウィキペディア(仏語) https://fr.wikipedia.org/wiki/Florent_Chavouet
YouTubeでほかにも https://www.youtube.com/results?search_query=Florent+Chavouet
ほかにも
http://strabic.fr/Florent-Chavouet-Cartomaniaque
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