きのうやったNHK BSプレミアムの「チョイ住み in マレーシア」見ましたか。どうでしたか。

私は、すごく面白かったし、感動しました。

個人的には、これまでに見た「チョイ住み」の中で一番良かったかもしれない。

(私がこれまでに見たのは、今回のマレーシア編のほか、台北編、プサン編、香港編、キューバ編、パリ編、ハノイ編。私が見ていないのはリスボン編、ニューヨーク編、フィレンツェ編、フィンランド編、ロンドン編です)

 

今回の「マレーシア編」で、首都・クアラルンプールで1週間、共同生活をしたのは
料理研究家の浜田陽子(41歳)とクリエーターのチョーヒカル(24歳)。

前回の「香港編」のことがあったから、私は多くの人が感じたのと同じように、女性のコンビはキツいんじゃないかと恐れていた。

でも、今回の浜田さんとチョーさんは、大丈夫だった。

ものすごく良かった。

 

まず、今回は「2人の出会いの設定」が、究極のパターンだった。

 

この「チョイ住み」は、初めて出会う2人が異国の地のアパートで暮らすように滞在する、というのが基本コンセプトだが、「その2人が出会う設定」にはいくつかパターンがある。

それは、

<1>
日本で2人があらかじめ会って、
2人でいっしょに現地にやってくるパターン。

<2>
向こうでこれから共同生活する相手が誰なのか、
日本で、あらかじめ教えてもらってから
現地で待ち合わせるパターン。

<3>
お互いに、相手がいったい誰なのか
教えてもらわず、知らないまま現地に入り、
初めて両者が現地で対面するパターン。

私が見たこれまでの「チョイ住み」の中で多かったパターンが<2>で、これは、要は、会う前に釣書と写真でお互いのことを知る、いわば「お見合い」と同じ。

<1><2><3>のうち、どう考えても面白くない(スリルがない)のは<1>。

逆に、一番面白いのは、これはもう究極の<3>に決まっている。

 

<1>のパターンをとったのが前回の「香港編」でした。これは「香港編」が初めて?

どう考えても「香港編」はすでに最初の段階で制作サイドが自ら番組を面白くなくしていた。

というか「香港編」の2人は、すでに仕事で過去に会ったことがあるということで、初対面ではないので<2><3>のパターンではやりようがなかった。

 

今回の「マレーシア編」は<1>ではなく、さらに<2>でもなく、究極の<3>のパターン。このパターンは今回が初めてなのか?

 

先に現地入りしたチョーさんは、待ち合わせ場所であるアパートのロビーで相手が来るのを待っていた。これから一緒に住むアパートだ。

そこへ浜田さんがやってくるのだが、迎えるチョーさんは挙動不審になってしまい、なんか変だ。なぜか?

「チョイ住み」の公式サイトに、チョーさんのインタビューがある。

それを見ると、こうある。

「今回は、現地で会うまで相手が誰なのか教えてくれないというシステムが導入されちゃったみたいで、それも不安でした。で、我慢できなくなって出発の前日にSNSで『明日、マレーシア』で検索してしまいました。すると、モデルで私と同じ歳くらいの茶髪の女性が『明日からマレーシアに行きます』と書き込んでいたので、見つけちゃった!って感じでした。」

ところが、待っていたら年格好の全然違う日本人がやってきた。

だから
「私は、茶髪のモデルの子が『イエーイ!お待たせ!』みたいな感じでやって来ると思っていたので、浜田さんの姿を見たときはびっくりして思わず1回、柱の後ろに隠れてしまいました。(中略)何度も言いますが、本当に茶髪のチャラい感じのモデルが来ると思っていたので、『浜田です。よろしくお願いします』と礼儀正しくあいさつされて、必死に冷静さを装っていましたが、内心はパニックでした」

 

前回の「香港編」ではアパートで料理を作らなかったため、それを面白くなかったと指摘するネットの声も多かった。私もそう思った。

今回は料理を作るということに関しては、浜田さんは料理研究家だから、すでに人選の段階でそれは担保されていた。

でも、いくつか「チョイ住み」を見てきて思ったが、やっぱりこの番組が面白くなるかどうかの最大のカギは、アパートで現地の食材を使って何かを作って食べることよりも、2人の仲が日を重ねるにつれどういう形になっていくか、こっちの方だと思う。

その点で、今回は非常に面白かった。

まず、すでに書いたとおり出会いのパターンが理想的だった(それに加えチョーさんの早とちりによる「人違い」というオマケも付いた)。スタートが良かった。

その出会いのスタートから、最後に別れるまでの、2人の相手への向き合い方も良かった。

 

ところで、番組の中で出てくる「チョイ住みのすすめ」のテロップの「その1」は、これまでは「チョイ住みのススメ その1 アパートで滞在費を節約」だった。

けれども、なぜか今回は「チョイ住みのススメ その1 住む部屋にはとことんこだわろう」だった。

街の中心部の34階建て高層アパートの30階にあるキレイな部屋で、ダブルベッドのある広いベッドルームが3つ。全部で広さ147平米(!)、バルコニーからは絶景のシティビュー。で、1泊日本円で9900円って、安すぎ! ホテルに泊まる気がしなくなる。

 

さて滞在も中盤、2人は公園の芝生に座ってお昼(?)を食べながら、それまでの日々でマレーシアやマレーシアの人々について感じたことを語り合った。これも良かった。あらためて分かりやすく思いを口にすることは、説明的ではあってもテレビ番組の場合、必要なんじゃないか。そういう場面が今回はきちんとあった。

 

イスラム教のヒジャブ(スカーフ)をお店で買って、浜田さんはそれを身に着けて笑顔で屈託なく街中を歩くのだが、同じくヒジャブを顔に巻いて横を歩くチョーさんはなぜか浮かない顔。なにを思ったか途中でヒジャブを顔からはずしてしまった。

なぜか。その理由は、後でなされたチョーさんへのインタビューでのコメントで示された。

そのチョーさんのインタビューコメントは、先ほどのシーンの映像にかぶせて流れた。

チョーさんが言うには、

「宗教って本当に全然違う。私たちの本当に考えもつかないルールがあったりするじゃないですか。それはその人たちの文化だから、(イスラム教徒ではない人間が気軽にヒジャブを街中で身に着けたりしたら)知らず知らずのうちに、それをないがしろにしてしまうことがあるかもしれない。それは誰かが傷つくかもしれないというのがあったんです」

そのコメントの音声が流れている場面では、一方でそのヒジャブを身に着けている屈託のない笑顔の浜田さんがいる。

そして、これには温かいオチがある。

滞在最後の日。

たまたま幸運なことに、帰国する日、滞在しているアパートで、イスラム教の断食明けの「ハラリヤ」という盛大な行事があった。

本来はイスラム教の行事である「ハラリヤ」だが、このアパートでは、多民族・多宗教国家のマレーシアを象徴するように、宗教を超えた、アパート住民の憩いの集まりとなっていた。

アパートの前にテントを張って丸いテーブルをいくつも並べ、200名ほどの住民たちがバイキング形式で皆でにぎやかに食事をする。

その憩いの場に参加した2人。

チョーさんは気になっていたことをヒジャブを身に着けているイスラム教徒の女性に聞いた。

「(イスラム教徒以外の女性がヒジャブをして)皆さんの気分を害しませんか?」。

するとその女性は笑顔で答えた。

「全然問題ないわよ。まったくよ」

そこでチョーさんはこう思った。イスラム教徒の女性にヒジャブを顔の周りに巻いてもらいながら、その映像にチョーさんのその思いのコメントがかぶさる。

「私はいつもマイナスなところを心配する性格だったんですけど、それが持っているプラスな面を無視しちゃうことになるっていうことがあるんだなっていうのを、ヒジャブで思いました。みんなウエルカムやで、みたいな、みんなと違うけど共存できるっていう、自分と違うものを、いともたやすく受け入れている空気感、すごく居やすい、嬉しいっていうか、本当に知ることができた感じがします」。

チョーさんは、マレーシアという多民族・多宗教国家がもつ多様性を背景とした「寛容」の心を知ったのか。

浜田さん、チョーさん、そして笑顔でチョーさんの質問に答えてヒジャブを優しく巻いてくれたイスラム教徒の女性の3人が、スマホの自撮りのフレームにおさまる。

 

帰国まであとわずか。アパートの部屋に戻り、ソファで2人は泣いた。

浜田さんは涙が出てくる自分の気持ちを測りかねてか「え?…あ……そうか、寂しいんだ」と自分で言っていたけど、私は2人の涙には、1週間きちんと2人がお互いに向き合って過ごすことができ、相手が自分のことを尊重して認めてくれたことに対する、お互いの、相手への感謝の気持ちの表れがあったようにも思った。

 

1週間にもわたる滞在で、無人カメラも駆使して撮った大量の映像だから、90分の番組で実際に使ったのは撮影した全体の1割にも満たないかもしれない。

編集でカットされた部分には、2人がぶつかった場面もあったかもしれない。

今回も他の回と同様、滞在の真ん中あたりで、一日、お互いが離れて1人で過ごす日を設けている。

あれはリセットしてのガス抜きの意味があるんだろう。

今回の「マレーシア編」では、「台北編」で偶然(?)の成り行きで起きたような、現地の人の生活の場に入り込んでいくような交流はなかった(カットされたのかもしれない)。

今回は、例えば現地の家庭の一族の集まりによばれたりとか、現地の人をアパートに呼んで料理をふるまったりとかいったような、一見ディープな交流は画面には出てこなかった。

けれども、異文化に対して真面目に接して戸惑いのあったチョーさんに優しく応えてくれた、イスラム教徒の女性との触れ合いがあった。

 

……これはもう、現地の人との交流すらなかった前回の「香港編」とは180度出来が違う! 同じ「チョイ住み」でもまったく別の番組だ。

 

前回の「香港編」で評価を得られなかったスタッフが、今回の「マレーシア編」を視聴者に示してリベンジを果たし

「これでどうだ!」

と言っているような気もする。

「マレーシア編」の最後のクレジットを見たら、ディレクター2人のうち1人は、「香港編」と同じディレクターだった。

当然ながら「チョイ住み」も編集の際には、どの場面を捨ててどの場面を残すか、その回を全体を通してどういう方向、雰囲気に持って行くか、意図を持って作っていると思います。

例えば2人の間に起きた いさかいごと は丸ごと全部カットして徹底して穏やかな路線でいくとか、逆にあえて険悪なぶつかりあいの起きた場面を残すことによって最後の和解の場面をより一層感動的なものにする方向でいくとか、あるいは2人の交流よりむしろ現地の人々との交流に重きを置くとかなど、撮影された素材の取捨選択には毎回、制作者の意図が反映されると思います。

で、ツイッターでの評判を見ると、今回の「マレーシア編」はかなり良好。今回の編集で構成された内容は結果としては成功したんだと思います。

ツイッターでの評判
https://twitter.com/hashtag/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A4%E4%BD%8F%E3%81%BF?f=tweets&vertical=default

でも、番組がこういう形でひとつの完成形というか視聴者の期待と合致した理想形に到達すると、今後そのパターンの呪縛があるというか、このパターンを決まり事として踏襲してしまう恐れもあるんじゃないかとも思ってしまった。

視聴者がその形の再来を望むから。

 

見逃した方、この「マレーシア編」はいずれ再放送されると思うので、ぜひ見てみてください。

それにしても前回の「香港編」と今回の「マレーシア編」、放送の順番が逆じゃなくてホントよかったなあ。

 

「チョイ住み」公式ページ
http://www.nhk.or.jp/choisumi/

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