〈灣仔の再興燒臘飯店。9月3日撮影〉

 

浦島太郎になった。

ひさびさに行った香港で。

今回、私は自分の身体を香港の雑踏にひさびさに放り込んでみて、それが本当にあまりにひさびさなため、浦島太郎になってしまった。

なってしまったけれども、その浦島太郎が香港を懐かしみながらノンキに街歩きをするには、今回は香港の状況がちょっと尋常ではなかった。

 

6月に飛行機を予約したとき、まさか人々の政府への抗議活動が8月末になっても続くとは思ってもみなかった。

少なからずそれは私の滞在中の行動に何度も影響を及ぼしたが、それはおいおい書くことにする。

 

で、2019年8月30日(金曜日)、キャセイパシフィックの509便で、成田からLet’s Go!!(ひとりだが)

 

午前9時15分、定刻で日本を離れた509便は、香港に何時ころ着いたか忘れたが、多分定刻で着いた。

8月30日(星期五)、午後の香港国際空港・到着ロビーは静かだった。

香港に来る前に連日日本のテレビのニュースで見ていた空港到着ロビーでの騒動はどこか別の国で起きていたのかと思うほど静かだった。

ロビーではなぜだか女性が数名集まっておだやかに合唱をしているのが遠くの方に見えた。

それを聞き入る人はそれほど多くはなかったが静かに拍手を送っていた。

人々の抗議活動は実は収束に向かっているんじゃないか、と感じさせるような光景だった。

 

カードで香港ドルのキャッシング、SIMカードの購入、オクトパスカードのチャージをしたのち、ホテルに向かう。

今回の宿は九龍にあるMTR佐敦駅直結の中級ホテル、恆豐酒店(プルデンシャルホテル)だ。

ホテルには電車で、機場快綫→東涌綫→荃湾綫と乗り継いで行くことにする。

バスを選択しないのは、早く香港の日常の世界にひとりこの身を放り込みたいから。

電車のこのルートでいくと、茘景駅で東涌綫から荃湾綫のMTRに乗り換えるあたりから私の周りで「香港の日常世界」がスタートする。

 

荃湾綫・茘景駅のホームに立って見上げると、ホームドアの上に荃湾綫の駅名が並んでいる。

深水埗、太子、旺角、油麻地……おおお。

空港ではまだまだ実感が薄かったが、これらの駅名をこの目で見て、一気に、いま、自分が香港にいるのだということを、しっかりと、実感した。

嗚呼、ついに、やっと、来た、香港に。

 

荃湾綫のMTRに乗り込むと、一気に自分の周りにいる乗客が、普段の生活を送っている香港の人々だ。

 

乗ったらいきなりこんな紙がきれいに貼ってあった。

 

広東語、英語で駅名を告げる懐かしい車内アナウンスにひとり感動(すまないが私には普通話のアナウンスは余計)。

停車してドアが開くたびに見えるそれぞれの駅の懐かしい色タイルの壁面のホーム。

それを数度繰り返して電車は黄緑色の壁面のホームの佐敦駅に着いた。

改札を出てすぐのところにある出口「出口E 恆豐酒店/中心」から、直結となっているローカルなショッピングモール、恆豐中心(プルデンシャルセンター)に入り、エスカレーターで4階に上がってホテルに到着。

このホテルはオープンして間もない90年代に一度だけ泊まったことがある。今回は2回目。

 

九龍いちばんの目抜き通り、彌敦道(ネイザンロード)に面したプルデンシャルホテル。

泊まる宿がにぎやかな彌敦道に面しているということは私にとっては極めて重要。

にぎやかな所に面していてほしいのだ。自分の拠点が。

この写真では閑散としているように見えるが、でもこれはたまたま撮ったときのタイミング。

 

あらかじめ希望とする部屋のリクエストはメールしておいた。それをあらためてフロントで伝えた。

全16階のうち、なんとか希望通り上層階となる14階の彌敦道ビュー&キングサイズベッドの部屋にしてもらった。結果として部屋のグレードがスーペリアからエグゼクティブに3段階のアップグレードとなった(ただし階数が上になるのと、バスローブなど一部備品が付く以外はほとんど同じ)。

オープン当初に泊まったときはグレーを基調とした凝ったインテリアだった。それがごく普通の内装の部屋になっていた。

 

部屋に入るととにかく窓に直行し、まずは喧噪の彌敦道を見下ろす。約束の儀式。

彌敦道だ。2階建てバスだ。赤いタクシーだ。道路に「巴士 站」の文字だ。

嗚呼、ついに、やっと、来た、香港に。

 

だがいきなりこれである。道路の落書き。

さっきの電車内での貼り紙を思い出した。空港での穏やかな合唱の光景を見てかすかに抱いた、実は収束に向かっているのでは、という気持ちがしぼみ、これから15日間はこんな香港に身を置くことになるのかな、と悟った。

 

以前泊まったシャムロックホテルは彌敦道を挟んで真向かいにある。シャムロックホテルのときは、角部屋にしてもらった(赤丸のところ)。窓が東の彌敦道側と北の寶靈街(ボウリンストリート)側の2面付いているので開放的だった。

 

政情不安で客が減ったためという以外に考えられない明白な理由で、ネットを見るたび香港のホテルの料金は安くなっていった。プルデンシャルホテルも例外ではなかった。

7月初旬、最初にホテルのHPから予約したときは日本円換算で1泊税別1万円ちょうどくらいだった。それが日を追うごとに下がっていった。私は下がった料金での再予約を繰り返した。結局、1泊目のキャンセルチャージが発生する期限ギリギリの渡航直前に最後のキャンセルをして、その時点までで底値となった日本円換算で1泊約5800円+税10%で再予約した(このあと、滞在中にHPを見てみたらさらに安くなっていた)。

予約サイトのagodaだと日本円表記でもっと安かったが、「後日、再度独自レートで換算して日本円払い」というのが不安だったので、いろいろ考えて直接ホテルのHPから予約した。プルデンシャルの場合、タイミングをつかむと直接予約の方が実はエクスペディアなどの予約サイトよりも安い(ホテル直接予約よりも安かったのはagodaだけ)。それに直接予約の特典としてチェックアウトが15時まで延長となる。

 

とにかく希望の部屋にようやくたどり着いた。

ここから15日間の滞在が始まる。

これから初日の行動だ。