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 きょう部屋を整理していたら、こんなものが出てきました。香港のセントラルにある大手書店、三聯書店(出版社もやってます)のカサ袋です。今年の3月に香港へ行ったとき、このお店の玄関に置いてあったものです。
 世の中には、「ある条件に当てはまるモノが捨てられない人」 がいます。
 かなり昔ですが、ある雑誌で、世の中にいう 「コレクター」 と呼ばれる人の特集がありました。
 ミニカーだったか、それとも昔のブリキのおもちゃだったか、はたまた映画のチラシだったか、その特集で紹介された何人ものコレクターが何を集めていたか記事の内容は全部忘れてしまいました。が、ただひとり、今でも覚えているのが、「数字の入った紙が捨てられないコレクター」です。その人は、数字の入った紙類はとにかく捨てることができず、その結果、「コレクション」になってしまう。コンビニのレシートから使用済みの定期券まで、とにかく他人から見たらゴミ以外の何物でもないものが、この人のコレクションの対象になっていました。
 「コレクション」と「捨てられない」ではまったく意味が異なりますが、コレクションを「収集癖」という言葉に置き換えると、「収集癖」と「捨てられない」はある面で紙一重のところがありますよね。
 収集癖のある人は、他人には理解できない独自のこだわりを持ち、そのこだわりへのアプローチが積極的だと、その対象物はコレクションとなります。これは少なくとも当人にとっては納得の結果ですから問題ありません。ところが、これとは別に、その対象物を集めたりとっておくことが本意ではないのに、捨てられずにどんどんモノがたまっていくという人がいます。これが「捨てられない人」です。上に書いた、数字の紙のコレクター氏は本意で集めているのかもしれませんが。
 長々と書いてしまいましたが、要は、学芸員Kが、この 「捨てられない人」なわけです。コレクションする積極的な意志はないのに、「香港で手に入ったモノ」、なかでも「印刷物」がとりあえず捨てられない。その根底にあるのは 「これは、いつか、きっと、いい想い出の記念になるかも」 です。これぞ永遠の観光旅行客魂です。日本在住の香港ファン・学芸員Kのこの行動と想いは、香港が好きで かの地に移り住むことを実現した香港在住日本人の方々──学芸員Kから見たらまさに雲の上の天空に住む人々──の涙を誘うかもしれません。
 写真のブツは、冒頭で言ったように3月に行ったときのものですが、このときの香港は天候があまり良くなく、買い物で行った店のほとんどの軒先にカサ袋が置かれていました。
 日本でもおなじみの、この、反エコロジーの代表選手とも言える使い捨てカサ袋、香港ではいつごろから普及したのでしょうか。学芸員Kは普段は環境保護問題意識とか、モッタイナイなどの感覚に欠けていると自覚しているのですが、このカサ袋だけは、どうも気になります。新しいカサ袋が来店客に引っこ抜かれていくその横の回収箱には、ほとんど新品の用済みのカサ袋が捨てられていて、たいていはその回収袋からあふれ出ています。たまに、こっちの回収箱のほうのカサ袋を使ってやろうか、と考えたりしますが、思うだけで実行に移したことはありません。
 それはともかく、日本と違って香港のカサ袋は、実にタチが悪い。袋に店名が入っている(笑)。お店の名前が入っているから、記念のお土産になってしまう。けっしてお土産にしたくはないのに。しかし、「とりあえずホテルに持って帰ろう」 ということになる。そのときはホテルで捨てることも選択肢として残しておく。で、ホテルの部屋に戻っても結局捨てない。そして、明日がいよいよ帰国という段になって、ホテルの部屋で荷造りをしているとき、「そんなにかさ張らないから、とりあえず日本に持って帰ろう」 ということになる。このときも、邪魔なら日本で捨てる、という選択肢を頭の中に残しておく。ところが、いざ日本に帰ってみたら、今度は始末が悪いことに「わざわざ香港から持ち帰った」という気持ちも出てくるから、ここに至っていよいよ本気で捨てられなくなるのです。
 要は「捨てられない」のは目に見えているのですが、そのときそのときの判断を停止して、あとに引き延ばしている。そして、同じクセのある人ならすでにお気づきかと思いますが、帰国前のホテルでの荷造りの段階では、「そんなにかさ張らない」なんてことはゼッタイになく、単にそうだと自分に言い聞かせているだけで、単品ならたしかにかさ張らないが、実際にはどう見てもすでに相当膨大な量の捨てられない印刷物がスーツケースの中を占領している。印刷物は重いです。引越しのとき運送屋さんが 「紙とか本の印刷物が入ったダンボール箱が一番重い」 と言ってました。そんな印刷物が大量に入ったスーツケースを引きずって空港に行き、ときにはキャセイのチェックインカウンターで機内預け重量オーバーの追加料金を数千円取られ、帰国の途に着くことになります。
 で、この繰り返しで、こうやって、いま、学芸員Kのまわりには、「とりあえず」で持ち帰った、香港の街で配られたバーゲンセールのチラシやら食堂のメニューやら古新聞などが膨大な数でたまってます。まあ、中には、マニアからすれば多少の資料的な価値が出てきたものもあるかもしれない。たとえば20年前の今はなき大映画館の入場券の半券とか。…エ、これも価値はナイ?(笑)
 学芸員Kは、「香港のにおいを感じさせる香港ローカルな印刷物」がどうも捨てられません。香港を感じさせる印刷物ならすべて対象になってしまう。カサ袋など紙でなくとも印刷されたものなら対象になってしまいます。日本の大きめのスーパーマーケットの2階あたりでよく売っているのを見かける、プラスチック製の3段整理ボックスがありますが、現在、あのようなボックス何個かに、たまりにたまったこれら香港の捨てられない印刷物が入っています。印刷物の王者、新聞はこれには入りきらずいくつかの段ボール箱で眠ってます。
 ちなみにカサ袋はこれ以外にも香港中央図書館や商務印書館、タイムズスクエアそのほか、いろんなところのものを香港から持って帰ってきましたが、どっかへ行ってしまいました。どっかへ行ってしまうくらいのものなら、最初から持って帰ってこなけりゃいいんです。と、書きつつも、「あ、そごう のも持って帰ってくりゃよかった」と頭をよぎるから、手に負えません(苦笑)。香港のカサ袋から店名が消えることを本気で望んでいます。
 たまたま整理していたら出てきた、たかがカサ袋(正式名称を知りません)で長文になってしました。あしからず。