徹夜明けでいま帰ってきました。

YouTubeの映像から。1978年に放送された日本テレビの「木曜スペシャル」です。ブルース・リーの「死亡遊戯」公開時の映画宣伝の番組です。

以前から最初のさわりの部分だけ数分が、YouTubeにアップされていたのですが、最近になってほぼ全編がアップされているのを、mixi仲間の李神龍さんの日記で知りました。

映像が長いので全部で9本に分かれています。

驚いたのは8本めの、これ。

 いきなりマイケル・ホイの「賣身契」(Mr.BOO! インベーダー作戦)の撮影風景(どう見てもヤラセですが)が出てきて、若き日のマイケル・ホイが!

のちに日本で『Mr.BOO!』のタイトルが付いて公開されることになる、『半斤八両』の名シーンも出てきます。

ところが、なんの手違いか、初期の作品『鬼馬雙星』(Mr.BOO!ギャンブル大将)の名前で紹介されてます。

マイケル・ホイのコメントの吹き替えがやけにマジメな声で広川太一郎じゃないのが思いっきり違和感あります(笑)。

この番組で紹介されたことがキッカケでこの『半斤八両』が日本公開となったのかもしれません。実は当時、私はこの放送を見ているのです。家族で大笑いしたのを覚えています。こんな喜劇が香港にあるなんて驚きでした。当時はブームは過ぎたとはいえ香港映画といえばまだ「カラテ映画」「カンフー映画」でしたから。

このとき、はじめてマイケル・ホイという人を知りました(いや、番組を観たときは、映画はともかく、マイケル・ホイという人物はまったく印象に残らなかった)。

いまはもう遠いむかし。マイケル・ホイがこの番組に出ていたことも、番組の内容自体も、全部忘れてました。

そんな、私が若き日のマイケル・ホイ以上にビックリしたのが、3分45秒あたり、MTR佐敦站近くにあった、万博のパビリオンのような姿の大劇場、ゴールデンハーベスト映画上映の総本山、
あの嘉禾戲院(ゴールデンハーベスト・シアター)
が出てきたことです。驚きました。

とにかく、1978年当時の嘉禾戲院の、カメラがロビーの中にまで入っていき、チケット売り場も出てくるのですから、貴重な映像です(4分55秒あたり)。

映画館のロビーなんて、動く映像に収まっていることなんてあまりないですものね。

係のお姉さんが座席表に赤のダーマトでチェックするチケット売り場が画面に出てきたときは懐かしくて鳥肌(笑)。画面に出てくる座席表は赤いチェックがすき間なく入っててほぼ満席のようす! イイ時代だなあ。

座席表の座りたいところの番号を客が指でさして、係のお姉さんが座席表にチェックを入れ、チケットにその番号を殴り書きするシステム。

1980年代は土曜の夜9時や11時の回ともなれば不良っぽいアンチャンやおネエさんが徒党を組んで映画を観にやってきました。かれらが座席表を指さして7人とか8人とか10人とか人数を告げる。そんなとき係のお姉さんは1席1席にチェックを入れるんじゃなくて、座席横一列にザーッと一本の赤い線をひいて埋める。土曜の夜はそんな赤い一直線が座席表にいくつも引いてあってそれは豪快でした。

そんな 「団体様ご一行」 の前や後ろや横に 「運良く」 座ると、上映中に威勢のいいヤジや嬌声が間近から聞こえてきます。ときにはこっちが日本人だとは知らない隣の席のアンチャンがこちらに顔を向けて笑いながら 「こんなことあるわきゃネエよな~!?」と声を掛けてきて同意を求めてきたりして(広東語はわからないがおそらくそんなことを言ってるハズだからこっちも威勢よくうなずく)、よりいっそう香港で香港映画を観る楽しさが増すのでした。はじめて行った香港で、サモ・ハン・キンポーの 『霹靂大喇叭』(デブゴンの霊幻刑事/オバケだよ全員集合!)という映画を満員御礼の快楽戲院で1200人以上の観客に混じって異常な盛り上がりの中で観たとき、私は「そうか、これが 爆笑 というものなのか」と思いました。

「赤ダーマトチェックの座席表」は1990年代なかば頃まではまだ各映画館でおなじみだったチケット売り場の風景です。

 

参考に下の画像を見てみてください。これが座席表(座位表)です。画像をクリックしてみてください。

seat-sunbeam

この画像は、新光戲院のサイトの残骸から拝借。

赤いチェックはたった今私が画像編集ソフトで適当に入れたものです。これからまだ客が入る途中という感じです。全部赤で埋めて満席にしてみたかったのですが挫折しました。

チェックが横線で5、6席分ダーッとなっているのは、若いニイチャンや男女混合のグループが夜遊びでやってきたという印。当時は深夜の上映にはこういうグループを本当によく見かけました。上映中の彼らの大きな声のヤジや声援が場内を盛り上げてました。

1980年代は各映画館とも1000席を超える大劇場で、ごく普通の大作でもない香港映画の上映に、画像のような1階席とさらに2階席までもフルに埋まって満席になることが多々あったのですからスゴイです。ロビーに「FULL 満座」と書かれた札止めがかかって私は入れなかったこともあります。まさに黄金時代でした。活気がありました。

赤チェックを入れたあとで、間違いに気づきました。チェックの方向が逆でした。売り場で客側に向けて座席表を見せているので、係のお姉さんから見たら上下が逆。逆さからチェックを入れるため、チョンとはねる「角」は本来はスクリーンに向かっているのが正しいです。

上のYouTubeの映像でも様子がうかがえますが、観客の入れ替え時は映画館のまわりやロビーは人でごったがえします。それをあてこんだ屋台もたくさん出ます。この映像でも水野晴朗の話しているうしろで屋台の物売りの声がさかんに聞こえてきます。

香港の当時の映画館は、日本の映画館とは違って館内のロビーはチケットがなくても入れるパブリックスペースとなっています。そこに現在上映中や次回上映のロビーカードの写真などが貼ってあります。チケットをもぎってもらってドアやカーテンを開けて中に入ると、いきなりそこがスクリーンのある場内となります。

で、話もどって木曜スペシャル。

これ。こちらは3分30秒のあたりに、いまはなきゴールデンハーベストスタジオの門から中に入っていく映像。(事情がよくわかりませんが規約違反のためか音声が削除された模様)

私は1986年から1990年代半ばころまで数回、ゴールデンハーベストのスタジオに行きました。2回目からはビデオカメラを回したのですが、その後そのビデオカメラが壊れてしまい、けっきょく再生を1度もしていないので観ていません。だからこの映像はすごく懐かしく思いました。

スタジオの敷地内はまったく変わらないようですが、私の行ったころと違って、1978年のこの映像では正門の前が未舗装のようで周りの様子が違うような感じがします。1986年の頃は周辺が開発されて正門の前まできちんとした道路が来ていたような気がします。

そして、これ。


こっちはショウブラザースのスタジオが出てきます。レイモンド・チョウが若い!

この番組「木曜スペシャル ブルース・リーの世界」は、大村崑さん親子がゲストで出ていたという以外はほとんど内容を忘れていました。だから以前からずっと観たくて観たくてしょうがなかった番組です。

2000年頃、あるとき香港のブルース・リー専門店に行ったら、店内のモニターの横にこの番組を録画したビデオテープが置いてあったので、よっぽど店員さんにお願いして流してもらおうかと思いましたが、なんとなく気後れしてできませんでした。

おそらくあのビデオテープは日本の同志にダビングしてもらったものだと思います。ラベルの文字がしっかり日本人の書く日本語でした。

「やっぱり芸能人はお金持ちでいいなあ」と当時この番組を観て思ったものです。だって大村崑さんは息子さんたちと連れだって1970年代にわざわざブルース・リーの家を見に九龍塘行ったりブルース・リーの墓参りにアメリカのシアトルに行っているのですから。それも何度も。高いですよ、おそらく飛行機代。香港ドルだって50円とか60円くらいしたのでは。

その彼らのブルース・リー宅訪問や墓参りを写した8mmフィルムの映像もこの番組のはじめのほうで紹介されます。

この番組は、冒頭はじめ随所でブルース・リー出演の一連の映画やドラマがやたら長時間にわたって流れます。ゴールデンタイムの番組なのに、昔のテレビってこんなに冗漫でのんびりしていたんだなあ、と、すごくテンポの遅い構成に時代を感じてしまいます。

でも、当時はレンタル・ビデオもなかったし、ビデオデッキの普及もまだまだだったから、テレビで人気映画のシーンをじっくりと流すことは、ましてやブルース・リーの映画を流すことは大きな需要があったのでしょう。

この番組はほかにも日本人カメラマンの西本正氏やノラ・ミャオはじめ見どころたくさんです。

この映像は貴重なので香港人の知人にも教えてあげようかなと思います。

時間がある方はこの「木曜スペシャル」のその1からどうぞ。
こちらからたどってみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=kvZ1Hxc_RNc

 

おまけ。これが1986年の嘉禾戲院です。学芸員K撮影。写真をクリックしても拡大しません。私の撮った映画館の写真が香港の「懐かし投稿サイト」やブログや有名新聞社にこれまでさんざん無断で使われてきたので(笑)。

gh-theatre1986.jpg それと、最後になりましたが前から キネマ旬報臨時増刊の香港映画人物名鑑 とか —– 訂正:香港の俳優名鑑「昨夜星光」(日本語版もあり)でした—– に載ってる古い写真を見て思っていたことなのですが、この木曜スペシャルを見て確認できました。若い頃のマイケル・ホイはキャイーンの天野に似ていると思います。