その2からのつづき  最初から読まれたい方はこちら

タクシーは、門をくぐってまっすぐに走り、けっこう奥まで進んだところで「ゴールデンハーベストに連れて来た客はいつもここまで運ぶんだ」 とでもいうかのような慣れた感じで、何台かクルマの置いてあるところで停まりました。

スタジオに着いて舞い上がっていた私は、気もそぞろに料金メーターを見て、表示されていた50香港ドルに、乗車拒否せずここまで運んでくれた神様へのお礼として5ドルのチップを足して、合計55香港ドルを渡してタクシーを降りました。

タクシーを降りてすぐ目に付いた建物がありました。どうやらそこが本部棟のようです。

私は、本部棟に向かって何歩か歩きかけました。

そのとき、私は、はたと立ち止まりました。

「……!」

頭の中に先ほどのタクシーの料金メーターが映像になって浮かびました。

「タクシーの料金メーターは、『50香港ドル』じゃなくて『5香港ドル』ってなってた!」

振り返ると神様の運転するタクシーはすでに何十メートルか先にいて今まさに門をくぐって出て行こうとしているところでした。

私は何も考えずタクシーめがけて走り出しました。タクシーが門をくぐろうとするその直前、追いついた私は運転席のウインドウを叩きました。

そのときどんな英語を私が言ったのか思い出せませんが、「フィフティダラーズ、フィフティダラーズ、ミステーク、ミステーク、ミステーク」みたいなことを叫んだんじゃないかと思います。

運転手は私の訴えに応えて、ちょっとだけニヤッとすると、ポロシャツのポケットから50香港ドルを出して私に返してくれました。(チップ分の5ドルを売り上げの箱か何かに入れて、残りの50香港ドルはまさしくポケットマネーにしようとしたのでしょうか)

私の叫びを無視して走り逃げることもできたのに。やっぱり神様でした。

結局タクシーは正規の5香港ドル(チップなし)を受け取った形で去っていきました。

料金が5香港ドルなのに、50香港ドルにご丁寧に5香港ドルのチップを付けて渡した馬鹿者は、再び本部棟に向かって歩きました。

ちなみに当時のレートは1香港ドル=24円でした。

つづく。