関西屈指の高級住宅街があることで、兵庫県芦屋市は全国的に有名ですが、その中でも特に超豪邸―――いや「お屋敷」と言ったほうが似合うのか―――が立ち並ぶのが芦屋市の六麓荘町(ろくろくそうちょう)というところだそうです。
 昭和のはじめに開発された由緒ある超々高級住宅街。 この六麓荘町、学芸員Kは行ったことがありませんが、想像するに、東京で言えば大田区田園調布の、その中でも特に田園調布駅から放射線状に街路が伸びている、田園調布3丁目のような感じなんでしょうか。
 田園調布3丁目には、あまりにすごくて笑ってしまうような、これが個人の家なのか?と絶句するほどの非日常的な超豪邸が並んでいます。ここを物見遊山で散歩すると面白い。世の中にはこんなすごい、立派な造りの家があるのかあ、ということがわかる。
 さっきgooの地図でみたところ、六麓荘町は田園調布3丁目よりも宅地が広くて大きな家がたくさんあるようです。いまやっている山崎豊子原作のTBSのドラマ 『華麗なる一族』 の舞台は関西ですが、一族の住む家はここ六麓荘町という設定なんでしょうか。ちなみに学芸員Kは、今やってるドラマよりも昔作られた仲代達矢/佐分利信主演、山本薩夫監督の同名の映画の方が断然雰囲気が出ていて好きです。田宮二郎ほか脇を固める役者陣の顔ぶれもすごいです。黒澤映画で腕を鳴らした佐藤勝作曲のメインテーマも実に華麗です。
 
 2月1日、この芦屋の六麓荘町を超高級住宅街として存続させるため、400平米以下の住宅は建築を認めないという条例が施行されたとのことです。
 けさ、テレビのニュース番組でその条例施行のことが報道されました。番組ではこの六麓荘町の生い立ちについても紹介していました。で、ここでやっと本題に入りますが、なんとこの六麓荘町、最初の開発のときに、当時の香港の高級住宅街をお手本にして作られたということです。
 昭和初期に開発された芦屋のお屋敷街が香港をモデルとしていた !? 知りませんでした!
 それにしてもそのお手本となった香港の高級住宅街とは、いったいどこ?
 香港には九龍塘という高級住宅街があります。かつてはあのブルース・リーやチョウ・ユンファが住んでいました。しかし九龍塘は戦後の開発で、いわば新興住宅街。とすると、六麓荘町開発のお手本となったのは、かつてイギリス人が多く住んでいた、香港島の山の上のほうではないかと思われます。
 セントラルからピークに登るのに便利なピークトラムと呼ばれるケーブルカーがあります。いまは観光としての役割が大きいピークトラムですが、本来は山の上に住む支配階級のイギリス人の移動手段として作られたということです。このピークトラム沿線の当時のイギリス人住宅街が六麓荘町のモデルになったのかもしれません。
 そういえば、かつて香港の山の上にはヤオハンの和田会長が住んでいました。学芸員Kは香港の空港で和田会長を見かけたことがあります。すでにヤオハンが倒産したあとだったんですが、その後も和田さんは香港や中国と関係が続いているのでしょうか。
 ところで、六麓荘町はもちろんのこと、日本では土地区分によってその土地に建てるものが細かく制限されています。しかし、香港はなんでもアリ。だから香港の高級住宅街の九龍塘では豪邸がラブホテルに変身したりする。ブルース・リーの邸宅がラブホテルに改築され現在も営業されているのは有名すぎる話。
 ある香港映画―――どの映画だったか忘れたが、『仙樂飄飄』だったか?―――で、主人公の女性が男の同僚とタクシーに乗って、一刻を争うという用件があり息せき切って 「九龍塘まで!」と告げたら、勘違いした運転手がルームミラー越しにふたりを見て意味深にニヤッと笑う、というシーンがありました。香港でこの映画を観たのですが、場内の香港人観客はウケてました。
 
 香港を代表する超高級住宅街として知られる場所が、同時にラブホテル街としても世間に広く認知されているという状況。これが日本なら、華麗なる方々が住む六麓荘町や田園調布3丁目に、お屋敷とラブホテルが隣り合って並んでいる……ということになりますが、その光景はちょっと我々の想像の範囲を超えてしまいます。香港のこんなアナーキーなところが、傍観する永遠の香港観光客学芸員Kにとってはたまらない魅力です。
 学芸員Kは九龍塘には数回行ってみたことがあります。最初に行った90年代初めころはラブホテルが目立ってましたが、それ以降はラブホテルだけではなくウェディングの撮影スタジオや幼稚園、老人ホームなどもあちこちに見受けられるようになりました。いずれもかつての邸宅を改造したものが多いようです。いまはないかもしれませんが、いくつか映画会社の事務所もありました。ジャッキー・チェンの事務所も。
 いま、東京や各都市のあちこちに、雨後のタケノコのように建てられているタワー型の超高層マンションがありますよね。 あれも実は香港がお手本だったりして。