senryoki.jpg本の話題が続きますが。

いま、この本を読んでます。2008年3月に刊行された『日本占領期 香港のこどもたち』。副題に『学びと暮らしのオーラルヒストリー』とあるので、なんとなく穏やかな感じもします。しかし、この本の原題は『十一万から三千へ』です。これは占領期に香港の学生や児童の数が11万人から3000人に激減したことを示しています。

以前、広東語を少し習っていたとき、教師が語ったのですが、香港では、単に「三年八ヶ月」といえば、それはすなわち香港が日本に占領された期間のことをさし、転じて、今でも「三年八ヶ月」は「日本占領期の香港」そのものを意味します。

日本が香港で行った蛮行は断片的に知っています。中国本土と同様、そのすべてが真実だったかはわかりませんが、当時の香港の人々が極めて大きな苦難を味わったことは事実です。

客観的にみれば、それまでのイギリスの占領から一時期日本の手に渡り、日本の敗戦により再びイギリス植民地に戻ったということになります。しかし、イギリスの植民地経営は放任主義だったので、日本の軍政による占領期の香港の人々の苦渋や困難が際立ってしまったという面があると思います。

この本には、当時小学校や中学校の生徒だった人や教師だった人が語るインタビュー集です。若くして抗日ゲリラとなった人、修道院に入り私塾のような形でボランティアで勉強を教えた人など、さまざまな人の日本占領期の様子が語られます。日本語版は凱風社より刊行されました。

このような題材を扱った書籍が翻訳されて書店に並ぶのは、小さな出版社の地道な出版活動の賜物だと思います。ネットでは得ることのできない情報が、まだ紙の本の世界には残っていると実感しました。

貴重な証言も多く、永遠の香港観光旅行客を自認するノーテンキな私の知らない香港がここで語られています。

ただひとつ、残念に思うのは、インタビューであることを意識しすぎたのか、日本語による訳文にちょっと不自然なところがあることです。
この本は、本文すべてが独白調で書かれていますが、日本語訳では、たとえば当時教師をしていた男性の語る口調が「~やったのじゃ。」などと、いまどき舞台や映画の脚本のセリフでも聞くことのない、フィクションとしての「お年寄り」の言い回しとなっています。そこがちょっと読んでいてひっかかってしまったのでした。

言い回しについては、訳者や編集者は苦労されたのだと思います。でも、読者の勝手な感想としては、原文のニュアンスとは異なるかもしれませんが、そこは翻訳として割り切って、全部「ですます調」に統一したほうが自然で、話し手の語ることが結局伝わりやすいのではなかったか、と、思うのでした。

定価4000円なのでちょっと高めの本ですが、興味のある方はどうぞ。

まだ途中までしか読んでいませんが、紹介でした。